【開催レポート】第151回わだい浪切サロン「中国この不思議な国の超(ウルトラ)民主主義とは~歴史から見る皇帝と主席~」
公開日 2023年12月26日
第151回わだい浪切サロン「中国この不思議な国の超(ウルトラ)民主主義とは~歴史から見る皇帝と主席~」を下記のように開催しました。
話題提供|三品 英憲(和歌山大学教育学部 教授 )
開催日時|2023年11月15日(水)19時?20時30分
開催方法|南海浪切ホール1階多目的ホールおよびオンライン講演(ハイブリッド開催)
参加者数|対面参加者名 オンライン42名 会場参加者 38名 合計 80名
講演内容|今回は、教育学部の三品英憲先生から中華人民共和国の成立の経過とその政治制度、特に中華人民共和国憲法下での民意の反映についてご講義いただいた。またその制度が、中国の歴史においていかなる位置づけかを過去の歴史と中国社会の権力観を交えてお話しいただきました。
なお先生からサロンでの講演後、下記のように講師アンケートと質問にご回答をいただいています。
① | ◆講演を終わってのご感想、参加者の皆様へ何かございましたらご記入ください | |
たくさんの方に聴講していただき、ありがとうございました。会場でお受けした質問や、アンケート用紙に書いていただいた感想?ご意見は非常に鋭いものばかりで、私の方こそ大変勉強になりました。アカデミズムでの議論と社会とをつなぐことが私の職責の一つだと考えていますので、このような貴重な機会を得られたことに感謝しています。また機会がありましたら、会の規模の大小にかかわらず気軽にお声がけいただければ幸いです。 | ||
② | ◆ここが言い足りなかった(補足や参考資料に関する言及など) | |
今回の報告では、中国の国家の構造を解説したうえで、「中国はなぜ超民主主義体制を採っているのか」という政治的な問題を思想や価値観のレベルまで掘り下げて説明しましたが、実は今回の報告で作成?使用したスライドには「続き」があり、そこでは中国社会における「公と私」の構造というさらに深いレベルからこの問題を説明しようとしていました。私は、皇帝?国家主席による専制体制を説明するためには「公と私」の問題の中に国家や党を位置づける必要があり、その点を説明しなければ話として完結しないと考えています。ただ今回は、時間の関係上、あるいは口頭での報告には適さないと判断してこの部分を割愛しました。機会があれば、今度は中国社会における「公と私」の問題を中心に議論してみたいと思います。もっとも、今回よりもさらに議論が抽象的になってしまうかもしれませんが…。 | ||
③ | ◆質問に対するご回答など | |
講演当日と、アンケートの感想部分で多くのご質問をいただきました。ありがとうございます。専門外のご質問がほとんどで、私がお答えするのが適任か分かりませんが、中国を考える際の「叩き台」としてご覧いただければと思い、蛮勇をふるってお答えいたします。なお、質問は順不同で記載します。 | ||
質 問 | 回 答 | |
【質問①】「中国は世界の国から認められるのか」 |
アメリカに並ぶ大国であることは世界中の誰もが認識していると思いますので、ご質問の趣旨は「尊敬されるか」「グローバルスタンダードになれるか」ということかなと思います。この点については現状では難しいと考えます。その理由は、「力による現状の変更」を求める中国の振る舞いは、第二次世界大戦後にアメリカが主導して成立させた国際秩序、たとえば「領土主権の相互尊重」や「独立国家間の平等の原則」など普遍的な価値に基づく国際秩序に替わる、新しい秩序を樹立しようとしているわけではないからです。現状の中国の振る舞いは、「弱肉強食」だった19世紀型の帝国主義国の振る舞いを想起させます。この原理が支配する世界は、常に強大な軍事力を維持しなければなりませんのでコストがかかりすぎて不合理です。中国自体、少子高齢化が急速に進行していますので、「力による現状の変更」が肯定される世界が出現したとして、その世界で常に中国が利益を得られるという保証はどこにもありません。そのことに中国もどこかで気がつくのではないでしょうか。 |
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【質問②】「中国は日本に何を期待しているのか」 |
アメリカからの自立、すなわち日米同盟の破棄だと思います。仮にそのために日本が独自に核武装することになるとしても、日米同盟が壊れることの方を中国は望むと考えます。中国にとって、日米という二つの経済大国が常に一体となって対抗してくる現状は非常に厄介ですが、もし日米がそれぞれ独自に行動するようになれば、日中関係、米中関係を巧みに操作することで日米両国から大きな利益を引き出せる可能性が出てくるからです。そのことに比べれば、中国にとって大した脅威にはならない日本の核武装は許容できる問題でしょう(日本は狭い島国ですので、大都市が集中している平野部に数発の核爆弾を落とされれば国家機能が停止し、再建も不可能になります。これに比べて大陸国家中国は日本の10倍以上の面積の平野を持っています。したがって日本は核の打ち合いになった時点で負け確定でしょう。日本にとって核兵器は核保有国に対しては絶対に使用できない兵器です)。以上から私は、中国は、対米自立を唱える勢力が日本国内で影響力を増すことを期待していると思います。 |
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【質問③】「今後の友好関係への改善策を学びたい」 |
国家間の関係としては、中国が「力による現状の変更」を追求する以上、関係改善は難しいと思いますが、個人の関係としては両国民の関係の改善は望めますし、また追求しなければならないと思います。そのためには、単純ですが、留学生の交換など人の往来を活発化させ、互いの社会や価値観をよく知りあうことが重要だと考えます。現実的には現在の中国に留学に行くことはリスクを伴いますのでお勧めしにくいですが、中国からの留学生を受け入れることは十分可能でしょう。中国人留学生が日本社会で暮らし、日本人の知り合いをつくり、日本社会の価値観や考え方を知ること。また受け入れる側の我われが、彼らを通して中国社会の価値観や考え方を知ること。こうした相互理解の積み重ねが未来の両国関係の改善に欠かせないと思います。もちろん、今回の講演でも触れたように中国社会と日本社会とでは価値観も考え方も大きく異なりますので、両者の接触には摩擦がつきものです。ですが、摩擦が起こったとき、それを「こちらが正しくて、向こうが間違っているのだ」と考えるのではなく、その摩擦が何に由来しているのか、どこに違いがあるのかを言葉で理解し説明していこうという姿勢があれば、摩擦は自己を相対化し相手とより深いレベルで理解しあうための絶好の機会となるでしょう。そしてそのとき、中国研究に携わる者が蓄積してきた知識が役立つと考えます。専門家を社会に引っ張り出して、大いにその知を活用していただきたいと思います。 |
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【質問④】「日本の不動産を爆買いするような富裕層が多数存在するような現実はどこから生まれてくるのか。富裕層は中国国内ではどのように位置づけられているのか」 | いろんな説明の仕方があると思いますが、今回の講演の内容と関連づけてお答えするならば、「結果重視」の価値観が富裕層を生み出していると考えることができます。現在の中国は、共産党による事実上の一党独裁体制ですが、経済は完全な資本主義です。市場競争が(過剰に)いきわたり、猛烈な競争にさらされている社会です。持っている資源と情報を駆使していかに社会的?経済的な上昇を遂げるか、ということですべての人が争っています。共産党はこの社会で大きな権限を握っていますので、その組織に連なる(共産党員になる、共産党員と親友になる)ということは、自分が使える資源と情報を増大させる有効な手段として捉えられています。そうしたあらゆるものを動員して富裕化に成功した者が勝者であって、豊かになれなかった者が敗者です。勝者がその成功する過程でどんなに汚い手を使ったとしても、結果として富裕者になれば「すごい奴だ」ということで称賛されます(それゆえに成功者は党幹部と癒着しており、しばしば汚職事件として摘発され、場合によっては処刑されます)。「お金よりも大切なものがある」などといった「綺麗事」には価値が置かれません。このように中国社会は極めてドライな競争社会であり、そのなかで常に勝ち切った勝者としての富裕者が出現しています(逆説的ですが、ドライな競争社会だからこそ中国人は友人を非常に大切にします。競争に勝つためには戦友が必要だからです)。 | |
【質問⑤】「禅譲?放伐の歴史との関係をどのように捉えればいいのか」 |
「禅譲」と「放伐」は、「天命を失った皇帝」が帝位を他人に譲り渡す際の方法の違いです。「禅譲」は、「天命を失った皇帝」がそのことを自覚し、相手に「あなたは天命を得た人だ」と認めて帝位を譲ること、「放伐」は、「天命を失った皇帝」がそのことを自覚せず、「誰にも帝位は渡さぬ!」と頑張った挙句に殺されたりして帝位を奪われることですが、いずれもそれが実現した段階で「皇帝は天命を失っていた」と解釈されます。禅譲にしても、何の実力もない人に皇帝が帝位を譲ることはあり得ませんので、「その人に帝位を譲らなければならない(=譲らなければ殺される)状態」が発生していることが前提になります。これはすなわち「天命を失った」と解釈される状態です。そのうえで、皇帝が「もう仕方ないな」と思えば禅譲、「いやいや、そんなはずはない」と思えば放伐です。そして、何かのハプニングによって禅譲を受けようとしていた人が死んだり、放伐を企てた者が皇帝軍に敗れたりすれば、皇帝によって「やっぱりまだ朕に天命はあったのだ」と解釈されることになります。すべては結果によって解釈されるのです。 |
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私からの回答は以上のとおりです。ご質問の趣旨を取り違えている場合や、議論を重ねたいと思われる方は遠慮なくご連絡ください。メールアドレスは大学HPに記載しています。 |
講演風景
以上