プロジェクトタイトル
感情評価理論を用いた日本人の観光行動に関する研究
研究ユニット
代表者
プロジェクト期間
2019年5月16日 ~ 2020年3月31日
プロジェクト概要
本研究の目的は,理想の感情と旅行中および仕事中の実際の感情の関連性を明らかにすることである。近年,社会心理学で提唱された感情評価理論によると,理想の感情(経験したいと思う感情)と実際の感情(実際に経験している感情)は異なり,前者は特定の文脈とは切り離された目標となる感情経験であるが,後者は学校,仕事,観光といったさまざまな文脈によって変化する感情経験であるとされている。また,感情評価理論では,人間は理想の感情と実際の感情との間のギャップを小さくするために,観光を含むさまざまな活動に従事することが報告されている。本研究では,日本人の観光行動を理解するうえで,感情評価理論の有用性を検証する。
実績?成果
研究目的を達成するために,令和元年11月に予備調査を行い,質問項目を選定し,旅行の事前事後でオンライン調査を令和2年2月~3月にかけて実施した。なお,カナダの研究者との議論を踏まえ,仕事中の感情ではなく,旅行中の理想感情を尋ね,一般生活の理想感情と区別することにした。
オンライン調査では,500名の日本人旅行者(男性340名,女性160名;平均年齢47.5歳)から有効回答を得ることができた。2種類の理想感情(一般生活 vs. 旅行中)を比較した対応のあるt検定の結果から,高覚醒の快感情(HAP)では有意差が認められたが(t = -9.82, p < .01),低覚醒の快感情(LAP)では有意差が認められなかった(t = 0.94, p > .05)。つまり,一般生活で求める感情と旅行に求める感情は,HAPでは異なるが,LAPでは異ならないことが明らかになった。理想感情の文化差を考慮すると,一般生活では日本人はLAPを好むものの,旅行中には逆のHAPを求めることが示唆された。さらに,理想感情(一般生活)と旅行感情を比較するために行った対応のあるt検定の結果では,HAPには有意差は認められず(t = -1.22, p > .05),LAPのみに有意差が認められた(t = -4.38, p < .01)。理想感情(旅行)と旅行感情を比較するために分析結果からは,HAP(t = 5.83, p < .01)およびLAPともに有意差が認められた(t = 4.08, p < .01)。具体的には,旅行中のHAPは,一般生活で求めるレベルには達しているものの,旅行に求めるレベルには達していないことが明らかになった。また,旅行中のLAPは,一般生活および旅行に求める両レベルに達していないことが明らかになった。相関分析からは,予想通り理想感情と旅行感情間で対応する種類の感情に正の相関が認められた。しかしながら,効果量の観点からは,予想に反して,HAPの相関係数がLAPの相関係数よりも高かった。
本研究プロジェクトの結果から,①一般生活における理想感情と旅行における理想感情は異なること,②感情評価理論は,旅行の文脈では,補完理論に基づくこと,の2点が示唆された。